「自衛隊にいじめはない!」と断言する人を信用するなかれ

 

元陸上自衛官のレトロ軍曹です。

私が陸上自衛隊に入隊するかどうかを真剣に悩んでいた時に、入隊の窓口になった広報官がいるのですが、今思えば「ずいぶん適当なことを言いやがって」と腹が立つことが多々ありました。

自衛隊には二世、三世が少なくないので、親が自衛官だという場合は包み隠さず自衛隊内部の事情を知ることができることでしょう。

一方で、自衛隊に何のコネも手掛かりも無い場合は、広報官を通して自衛隊のことを知り、その話の中で「自分にもやっていけるかどうか」を検討するという人も少なくないはずです。

 

当ブログでは、過去に以下のような記事を書きました。

 

上記の2記事では、実際に広報官の人が読んだらイラっとしてしまうような表現で「広報官の言葉は真に受けるな」とお伝えしています。その上で「もちろん良い広報官もいますけどね」というフォローをしていました。

それを読んだ読者の方から「良い広報官と悪い広報官の見分け方ってあるんですか?」という、ありがたいご質問をいただきましたので、私の考える範囲内でこれにお答えしていこうと思います。

 

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「自衛隊にいじめはない!」と断言する人は信用できない

 

広報官も自衛隊を100%理解しているわけではない

私が自衛隊に入るかどうかを悩んでいた時に気になる部分はたくさんありましたが、1番心配していたのはここでした。いわゆる「いじめ」と呼ばれるものが蔓延しているのか、いないのか

特に私はストレートで高校を卒業した子たちよりも2年遅れで入隊することになったので、1年早く入隊している人は年下となります。今思えば笑い話ですが、年下の先輩にご飯をひっくり返されて「おい、食えよ」と言われるんじゃないかとか、結構考えていました。

自衛隊生活で最も屈辱的な経験|年下の先輩に横暴な振る舞いをされた

 

もちろん広報官は笑いながら「そんなことはあるわけはない」と一蹴したわけですが、今思えばスーツを着て仕事をしている広報官が、迷彩上下を着ている人たちのことを100%理解しているわけがないと思います。

改めて考えて欲しいのは、広報官の仕事は「1人でも多くの若者を入隊させる」ということです。物を売る営業マンのような人が少なくないため、商品の良い部分だけをアピールするという人がいるということは決して忘れないようにしてください。

 

自衛隊では職種が違えば風景も大きく違う

自衛隊には幾つもの職種が存在します。入隊直後の前期教育で素養を判断され、そこでの判断や本人の希望によって大体の職種が決まったうえで後期教育へと進みます。

その後期教育が終わったら部隊配属となり、多くの隊員はその職種をずっと続けていくことになるでしょう。たまに大きく進路変更をする隊員もいますが、これは非常にレアケースです。

 

例えば陸上自衛隊と聞けば、「夏の暑い日も迷彩の長袖上下を着て、汗だくになりながらほふく前進」などのイメージがあるんじゃないかと思いますが、私はエアコンの効いている室内で仕事をするような職種でした。

だから私は「普通科」が普段どんな仕事をしているのかという表の部分を少し知っているというくらいで、当然ながら裏の部分は知りませんし、職種が変わってしまうと内部のことは全く知らないということも結構あります。

※当ブログで「部隊による」というワードが頻繁に出てくるのは、そのためです。

 

もっと言うと「私のことを熱心に勧誘してきた広報官は、実は海上自衛隊の所属だった」とか普通にありましたから。服務規程とか規律などの根本的な部分は一緒だとしても、実情は大きく異なります。

同じような教育を受け、同じ言語を使っている私たち日本人にも色んな人がいるように、自衛隊にも「職種によって大きな違いがある」という部分から、自分の畑違いのことまで断言する人には注意した方が無難です。

 

自衛隊に「いじめはない!」と断言することの何が問題か

たぶんですけど、多くの広報官は「自衛隊にいじめはない」と答えるんじゃないかと思います。もしそういう広報官が居たら、「じゃあ学校にはいじめはあると思いますか?」と聞いてみたいです。

 

  • 学校にいじめはある→学校にはあるけど自衛隊にはないっていう根拠は?
  • 学校にいじめはない→???

 

各ニュースで報じられているように、大きな出来事になった物だけがピックアップされて報じられているということを考えれば、学校だろうが職場だろうが「いじめやパワハラが無いとは断言できない」のではないかというのが私の考えです。

特にその分母が大きくなれば大きくなるほど、それは形やデータとなって明らかになるのではないでしょうか。A高校1年1組でいじめがなくても、じゃあ学年単位は?学校単位は?となります。

仮に学校全体でいじめがなかったとして、その学校の生徒が「A都道府県の高校にいじめはない」って断言できないじゃないですか?それと一緒です。

 

もし言葉巧みに相手の心配を取り除きつつ、その上で嘘も言わないのであれば「私が見てきた範囲には、いじめは存在しませんでした」と答えるのが限界じゃないかと。

個人的には、相手のことを真剣に考えて答えるのであれば「たぶんどこかにはある」と事実を認めてもらった方が、よほど真剣に対応してくれていると思います。

そもそも「どこからがいじめなのか」も人によって違いますし、自衛隊にいればそのへんの感覚は一般人と大きく差が出てくるはずなので、あんまりアテにしないことです。

 

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実際の所、陸上自衛隊に「いじめ」はあるのか?

 

あるところにはあるし、ないところにはない

私は10年ほど前に陸上自衛隊を退職しましたが、6年間在籍していました。寮で同じ階に住んでいた隊員がいじめを苦に自殺してしまったという例も知っています。

割と身近で自殺してしまった自衛官の話

 

そんな私が「陸上自衛隊でのいじめの有無」に関して答えるのであれば、「あるところにはあるし、ないところにはない」という身も蓋もない答えになるでしょう。

正直にぶっちゃけトークをするのであれば「そりゃあるよ」って答えたいくらいです。誰もいないところに連れ込まれて殴られるとか、私は見たことはないしやられたこともないですが、そういうことがあっても全然不思議じゃない空気感はありました。

 

やっぱ「先輩隊員が深夜に帰ってきて寝ている後輩を起こして、おみやげと称してマクドナルドを食べさせる」的なものは、拒否権のない後輩にとってはいじめじゃないのかなぁと思いますし。

寮内の清掃は後輩の仕事だと理解していて、わざと靴墨が付くように床を擦りながら歩くってのも、一種のいじめじゃないかと思います。でも、この程度であれば「私はいじめに遭っています」とも言いにくいじゃないですか?そんな感じです。

 

いじめというか嫌がらせは非常に多い

個人的には「陸上自衛隊にいじめはある」と思っています

ただ今回の話の趣旨からすると、いじめと受け捉えるかどうかは人によって違うという流れになっているので、この場では「嫌がらせ」と表現しますが、嫌がらせはかなり多いです。

自衛隊にいじめはあるのか?|暴力・体罰などの実態を実経験から語る

 

別に「あいつが嫌いだから嫌がらせしてやろう!」と思ってやっているわけではなく、どっちかと言うと「後輩をおもちゃにして楽しんでいる」というニュアンスに近いようにも思います。

結果として「やられている方は嫌な気持ちになっている、だけど先輩相手だし逆らえない」ということは結構あるでしょう。

もし更に上の先輩や上官に相談したとして、本気で対策してくれるという空気感が作れている部隊と作れていない部隊があるのは間違いないですし、その嫌がらせが寮生活上のモノならチクったことに対する報復なんかも怖いですし…。

 

ただ、フォローするのであれば「人によってはそれで笑ってもらえることが美味しい」と思うケースもあると思うので、全部が全部いじめになるかってのも微妙だと思います。

感じ方は人それぞれなんで何とも言えないですけど、「指導」という言葉が結構飛び交っているので、する方もされる方も「それが指導と言えるのかどうか」のニュアンスをはき違えているケースは少なくありません

 

遅刻してきたり、挨拶をしないという隊員に対して、少し高圧的に注意をするのはいじめになるのか。口で言っても改善しなかった時に、腕立てをさせたら体罰になるのか。

腕立てさせるのがセーフなら、頭を叩くのはダメ?挨拶していないのは問題外だけど、挨拶はしていて声が小さいというだけなら咎められる必要はない?

 

感じ方は人それぞれで、自衛隊には「階級が上の人、先輩隊員が絶対」的な空気があるんで、自分と価値観が近い上官に恵まれるかどうかも重要です。

いじめた方は「指導のつもりだった」と言うことが結構あるので、指導と称したいじめは結構あるんじゃないかと思います。

 

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最後に

自衛隊に身を置くと分かるかと思いますが、ある一定の時期から「分からないとは言うな」と言われることがあります。そうやって教育されている広報官は、入隊希望者に「自衛隊にいじめはあるのか?」と聞かれて、なんと答えるのが正解なんでしょうか。

もちろんこういう対応はマニュアルがあると考えるのが当然ですが、個人の判断で何か間違った選択をしてしまうと、より上の人間から咎められるケースがあります。

いじめの有無を聞かれて「ない」と答える分には怒られることはないと思いますが、「ある」と答えてそれが風の噂で広報官の更に上官の耳に入った時、いじめがあると答えた広報官に対して何かあるような気がしませんか?

 

そういう部分を考えて(自分のことしか考えないで)、言われたことを愚直にこなすだけの広報官も当然います。言い方を変えれば「目の前のあなたに対して、嘘をつくことに何の後ろめたさも感じていない」という人です。

色んな考え方、見方、基準がありますが、少なくとも「目の前の人が嘘をついていないかどうか」が、その人を信用できるかどうかの要素であることは間違いないので、広報官相手には「自衛隊にいじめってあるんですか?」と聞いてみるのも1つだと思います。

この記事を書いた人

元陸上自衛官のレトロ軍曹です。20歳の頃に入隊し、自衛隊には6年間在籍していました。仲の良い現役自衛官と今でも交流があるので、定期的に取材みたいなことをしつつ、自衛官を目指したいという人に向けて「もとじブログ」を運営しています。

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