元陸上自衛官のレトロ軍曹です。
入隊を検討している人、入隊を控えている人にとっては「自衛隊の内部事情」は非常に興味があるのではないかと思います。
特に「寮生活の自由度/いじめはあるのかどうか」は気になる反面、不安であることが多いという人も少なくありません。
実際に広報官に質問してみても、広報官の人は良いことしか言わないので、逆に怪しかったりもしますよね?関係者からすると、実際にあってもそれを公言するのは難しかったりもするでしょう。
そこで今回は「自衛隊にいじめはあるのか!?」という部分について、私の経験を踏まえながら詳しく書いていきたいと思います。
はじめに
自衛官は自殺する人が多いと聞きますが、確かに多いです。私も隣の部隊の人ですが、寮の中で首を吊ったという現場に立ち会ったことがあります。
ただ、多くの場合は「死ぬくらいなら逃げ出す」という発想になると思いますし、実際に門限になっても帰ってこない人間というのも何人もいました。
私の知っている限りの情報では、断固とした態度で「自衛隊を辞めたい」と言えば辞めさせてもらえるはずなので、なぜ自殺するほどまで追い込まれる人がいるのかは分かりません。
少なくとも「辞めたいのに辞めさせてもらえない」という背景はないように思えるので、自殺するくらいならやめるという考えが持てるうちは、そこまで追いつめられることもないでしょう。
自衛隊にいじめはあるのか
これは非常に難しい問題なのですが、あくまで私の実体験を元にお話しさせていただきます。
私の所属していた部隊では、上官が「こいつをいじめてやろう」と考えて日常的に行われるいじめは無かったように思います(それに近いものはあったような無かったような…)。
ただし「いじり」は日常的にありましたので、人によってはこれを「いじめられている」と捉える人もいるのではないかと感じました。
いじりの内容ですが、例えば変な下ネタ風のあだ名を付けたり、バカにしたりということはごく日常的にあります。もし芸人の誰かに見た目が似ているなどの特徴があれば、真っ先に狙われるでしょう。
「なんか面白いことやれ!」とか言われることを、人によっては「いじめ」と捉えてしまうことも絶対にないとは言えないでしょうから。
そこでも上手く立ち回れる人間こそが先輩や上官からも可愛がられるわけですが、基本的にはここで「やめてくれよ/お前らのやってることは面白くないぞ」という空気を出せば、大体の人間は離れていきます。
先輩から可愛がってもらったり、困った時に助けてもらったりしてもらえる可能性は低くなりますが、継続的にいじられることからは解放されることが多いはずです。
私の周りに関して言えば、先輩や上官も面白いと思ってやっているのであって、別にその本人を本気で傷付けようと思ってやっているという感じはありませんでしたね。
もちろんやられる本人としては辛く感じることもあると思います。キャラクターによっては他人に笑われることを苦痛に思う人もいるでしょうし…。
ただ、毅然とした態度で相手にしなければ、変に関与してこないことが多いというのが、学校などで行われているいじめとは違う点じゃないかと思います。
しかし、1つだけ注意点です。
通常の職場などであれば、別に先輩や上司に気に入られなくてもプライベートがあるからまだいいのですが、自衛隊におけるプライベートはあって無いようなものですので、先輩や同期とは仲良くした方が無難です。
普通の会社の飲み会なんかでも断りにくい雰囲気があるのに、プライベートまで完全に職場の上下関係に犯されている自衛隊では、仕事は仕事/プライベートはプライベートという考え方も難しいので、それがストレスに感じるという人は多いと思います。
▶陸上自衛隊の営内(寮)で出来る事・出来ない事|厳しいのは最初だけ
自衛隊に体罰はあるのか
頭を叩いたり、蹴ったりということは普通にありました。しかし、本気で痛めつけてやろうというようなものは体験したことがありません。
基本的に人を殴る時って「相手を傷付けてやろう」と思って手や足を出すと思います。
自衛隊でよくあるそれは、あくまで「自分の方が立場が上だと知らしめる/相手をびびらせる」というようなイメージです(不良がカツアゲする前のそこまでマジじゃないやつ)。
よくドラマで見るような「暗い部屋に呼び出して、顔じゃなくて腹を殴る」とか、そういうことは私の観測範囲では一切ありませんでした。
ただし入隊直後の1年間では、暴力ではないものの理不尽に身体を痛めつけられることがあります。例えば何かと腕立て伏せをさせられたり、空気イスをさせられたりなどです。
腕立てに関しては、命じる方も無理だと分かっている回数を言ってくることが日常茶飯事で、できなきゃできないで問題はありません。
特に入隊直後に関しては「絶対服従させる/洗脳する」という意味を持っているのか、相当理不尽な目に遭うことでしょう。まともな人間なら「やってられない」と感じる人も多いはず。
とりあえず、ニュースなどで報じられるような本気の体罰は私の周りにはありませんでした。
あ、体罰に該当するかどうかはわかりませんが、新隊員のうちは何かと理由を付けて本当に短いミリ数設定での坊主頭にさせられます。
あまり短すぎると被り物をする際によくないということで、せいぜい3ミリくらいであることが多いですが、強制的に頭を刈るという意味では体罰に該当する…かも。
▶陸上自衛隊時代に体験した体罰の話|意外と知られていない内部事情
自衛隊にパワハラはあるのか
自衛隊にはパワハラしかありませんでした。
これは冗談でも何でもなくて、そもそも自衛官には「上官の命令に服従する義務」というものがあります。これが既に世間で言うところのパワハラではないでしょうか。
原則的に言うとこれは職務上に限られる話なのですが、入隊直後でこれを覚えたばかりの頃は、これを面白がって飲み会などの場に持ってくる上官が多く、酒の飲める・飲めない関係なしに「中ジョッキ一気飲み」などの上官の命令に服従させられるまでがテンプレです。
あと新隊員のうちは、「飲み会での余興」がほぼ義務となっています。
世間では「上司が部下に対して無理やりカラオケで歌うのを強要すること」すらパワハラに当たると聞きましたが、カラオケで1曲唄って許されるのと、酔っぱらいを喜ばせる何かをやらされるのとでは、後者の方が圧倒的に精神的プレッシャーが大きいと言えるでしょう。
※私のいた部隊では、先輩隊員から「どうしても笑いが取れなかったら、最終的に全裸になれ!」と言われていました。
▶下っ端隊員の究極の試練「飲み会の余興」の乗り切り方を伝授する!
ちなみにキャラクター的に「そういうのは絶対に無理」という人がいるのも分かりますが、これについては拒否権はありません。
もし拒否しようものなら、あなた自身の外出する権利がはく奪されるとかそういう方向に向きますし、ひどい時には「連帯責任で同期全員が同じ罰を与えられる」こともあります。
さすがに自分は我慢できても周りの人間を巻き込むことは精神的にきますし、周りの人間からも「お前がやらないせいで、何で俺らが外出禁止になるんだ!」ということで、メチャクチャ空気が悪くなります。
とりあえず自衛隊でご飯を食べていこうと思ったら、上官の命令に服従することは絶対です。
自衛隊生活で受けた嫌がらせについて
以下では、私が入隊して1年目~2年目くらいの新隊員自体に受けた嫌がらせの幾つかを紹介します。
これを知って「なんだ、その程度か」と思える人なら、自衛隊生活も問題なく乗り切れるでしょう。
挨拶した/挨拶してないで100回以上の腕立て伏せ
自衛隊に入隊して真っ先に教わることは、挨拶の重要性です。敬礼の仕方なんかも教わりますし、新隊員のうちは周り全員が先輩であり上官です。
そして本当かどうかはわかりませんが、そのうち「新隊員が挨拶してこなかった」とイチャモンを付けてくる人物が現れます。
それを受けて、新隊員が全員で腕立て伏せです。誰がいつどこで挨拶をしなかったのかという事実は伏せたまま、命じられるがままに腕立て伏せをさせられます。
表向きは「誰が挨拶を忘れたかという情報は入っているが、それを教える義務はないし、1人の過失は全員の過失だ」ということで、全員が連帯責任で腕立てをさせられているわけですが、私としては「テイのいいでっち上げだ」と今でも思っています。
台風という名の伝統行事
自衛隊では寮での集団生活になるので、各人の整理整頓などは徹底的に叩き込まれます。
毛布などはバームクーヘンと呼ばれ、寸分違わずに綺麗にたたむことを教え込まれるのですが、そもそも超一流ブランドの毛布ならまだしも、自衛隊で何年も使用されてきた毛布が左右対称かどうかなんか怪しいものです。
これがもし数ミリでもズレていようものなら「台風」がきます。それも部屋の中に。
これは新隊員が来ると毎年行われている伝統行事(個人的には悪しき風習だと思っていますが)の1つで、早い話が「毛布が綺麗にたためていないなどの難癖を付けて、部屋をメチャクチャにする」というものです。
私は二十歳で自衛隊に入隊したのですが、今時中学生の先輩でもやらないような嫌がらせに本気で驚いたのを今でも鮮明に覚えています。
ロッカーなんかもグチャグチャにされて、それに気付いたら急いで片付けるのですが、点呼までには到底間に合わず、点呼ではそれをまたやり玉に挙げられ腕立てです。
ちなみに酷いケースだと、外の木に立てかけるようなカタチで二段ベッドが出されていて、明らかに楽しんでいる感も不快でした。
…たぶん時代が時代なら、インスタにアップとかしたんだろうなぁ。
当直を押し付けられる
自衛隊には当直(残留)というシステムがあります。簡単に説明すると「休みの日だろうが、有事の際にすぐに動ける人員が常にいないといけない」というものです。
すごく簡単に言うと「休みの日でも自衛隊の敷地から出られない、いわば生贄のような制度」です。
私は入隊直後にすぐに転勤になって地元から離れることになったので、現地には友達もいませんでしたから、別に外出しなかったからといって息が詰まるということはありませんでした。
しかし周りの同期たちは、週に1回か2回の外に出られるチャンスを潰されたときは、本当に泣きそうな顔をしている人がほとんどだったと記憶しています。
特に彼女がいるという人だと、休みなのに会えないというのは本気で辛かったでしょうね。
この当直というシステムですが、私の部隊では1期上~2期上の先輩隊員が日程表を作っていました。
ここで「先輩に可愛がられているかどうか」というのが非常に重要で、先輩のいじりに対して上手く返せる世渡りスキルを持った人間は、上手くかわしていくんです。
そして私のようなセンス✖の人間が休日の当直に指名され、外出できない休みを過ごすことになるというわけです。
▶新隊員時代の当直残留の話|真面目な奴ほど損をする馬鹿げたシステム
靴墨のオンパレード
自衛隊では半長靴と呼ばれるミリタリーブーツのような靴を日常的に履いているのですが、これで寮内を歩くと靴墨のような黒い汚れが付きます。
普通に歩いている分にはそこまで汚れません。しかし、ちょっとでもサッカーのシュートのような感じで床に擦ると、思いっきり床に擦れたような跡が残ります。
これはメラミンスポンジで磨くことになるのですが、嫌な先輩にあたると面白がってわざと擦って歩いたりもするので厄介です。
これに関しては毎年の新隊員の仕事になりますから、1年だけ耐えれば解放されます(翌年、新隊員がこなければ2年連続になりますが)。
私としては「自分がやられて嫌だったことは後輩隊員にやるべきではない」という考えなのですが、多くの人は「俺たちもやられたんだから…」という気持ちになるのかもしれませんね。
事実上の左遷や転勤など
私は自衛隊を辞めることを決めた年に、へき地に左遷されました。
交通手段もあまり無いような田舎に飛ばされたということもあり、個人的には自衛隊を辞めるにあたって様々な準備ができたので、心のどこかでは「ラッキー」くらいに思っていたのですが、やはり周りには「左遷されて可哀想だ」というように映っていたようで、そこは少し悔しい気持ちがありましたね。
それから自衛隊は全国的な組織ですから、どうしても転勤が付きまといます。
入隊して最初の3ヶ月は新隊員前期教育ということで地元の駐屯地勤務になるのですが、それが終わってからは転勤の可能性が出てくるでしょう。
私の時は、前期教育終了時点で10名ほど県外に行かなくてはならないという感じでした(ほとんどが北海道行きだったかなぁ)。
希望者を募ったところ1人か2人しか出ず、最終的には「班で話し合って1人選べ」ということに。
私は同期よりも歳を取ってから入隊したということもあり、同期ながらもちょっとだけ兄貴分のような感じもありましたから、ここについては私が立候補して県外に行ったわけですけど、別の班では最終的にジャンケンで決めた班もあったので、そういう意味では非常に理不尽な世界かもしれません。
ちなみに転勤も結構厄介で、仕事ができすぎてもダメですし、仕事ができなさすぎてもダメな気がします。1番いいのは「部隊の偉い人に取り入って気に入られること」でしょうか。
※それでも転勤をしたことが無いという人はほとんど見ませんが。
▶陸上自衛隊における転勤事情|地元に残りたいという希望は通用するのか否か
最後に
自衛隊にはいじめや体罰が蔓延しているというイメージがあると思います。私自身、入隊当初は「そのうちボコボコにされるんだろうなぁ」と思っていました。
ただ、そういう想像で入隊してみた感想としては「なんだ、大したことないじゃん」というのが本音です。
イメージ的には、中学校とか高校の陰湿系な方のイジメに近いと感じました。
「これ、大人がやることじゃないでしょ」という感じで、肉体的にというよりも精神的な攻撃というか、理不尽な嫌がらせみたいなのは目に付きましたね。
いずれにしても入ってしまえばそれが当たり前になるので、意外と大したことないって思えるはずですよ。
あとは当たり外れなので気にするだけ無駄です。あまり無責任なことは言えませんが、この記事に辿り着くほどあれこれ考えているようであれば、恐らく耐えられると思います。