自衛隊を退職するのって難しいの?|定期的に失踪者が出る理由

自衛隊を退職するのって難しいの?|定期的に失踪者が出る理由

元陸上自衛官のレトロ軍曹です。

先日、とある陸上自衛隊員が「もう戻りません、探さないでください」という置手紙を残し、門限になっても帰ってこなかったというニュースを見ました。それで自衛隊では事件に巻き込まれた可能性もあるとして、捜査網を敷くとか何とかやっていたわけですが…。まぁ逃げ出したということで間違いないでしょう。

それに対する一般の方のコメントが「普通に辞めればいいのに」という意見が大多数で驚きました。一般の企業でも退職代行なるものが流行るくらいですから、自衛隊を辞めると言い出すのは決して簡単なことではありません(思いつめてしまう人が少なくありません)。

この記事では「自衛隊を退職する際のいざこざや、一般の会社を辞めるのと自衛隊を辞めるのとでは少し話が変わってくる部分」について、私の実体験を踏まえて簡単にご紹介したいと思います。

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入隊時に「脱柵すると数千万単位の経費を請求する」と言われる

まず入隊時に、自衛隊のルールについて教わります。その中に「脱柵するな」ということを言われるのですが、これは「自衛隊が嫌になったからと言って、門限になっても帰ってこないとか、夜逃げのようなカタチで居なくなるのは辞めろよ」という注意です。

付け加えて「数千人、数万人の仲間がお前を探すことになるが、隊員たちのこの時間外労働分の給料は、いなくなったお前が払うことになる」と言われました。

これが事実なのか脅しなのかはハッキリしませんが、いずれにしても門限になっても意図的に帰ってこない隊員が定期的に出てくるというのは事実です。ちなみに私の身近にいた隊員にも脱柵した隊員が何名かいますが、その隊員たちは法外な金額を請求されるということはありませんでした(というか大々的な捜索をするまでに至りませんでした)。

 

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なぜ脱柵をする隊員が出るのか

私の身近にいた脱柵した(門限になっても帰ってこなかった)隊員に話を聞いたところ、その中の何人かは「自衛隊を辞めたいと言い出しにくかった」と言っていました。恐らくですが、追い込まれ過ぎて思考が短絡的になり「辞めたいと言えないならクビになればいい」と考えたのではないかと思います。

自衛隊では色々なことで追い込まれた結果、最終的に自殺という選択肢を取る人も結構いるので、逃げ出したくなる気持ちは何となく分かります。

私もお正月やゴールデンウィーク、お盆休みなどの長期休暇明けは、もれなく「駐屯地に帰るのが死ぬほど嫌だった」ので、世の中には色んな人がいるという意味では「帰ってこない隊員がいても別に不思議じゃない」という気もしますね。

割と身近で自殺してしまった自衛官の話

 

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私が思う「自衛隊が辞めにくい理由」について

先輩隊員、上官からの説得がすごい

よほど嫌われているとか、よほど仕事ができないお荷物扱いをされていない限り、結構な熱量で説得されます。私の実体験ですが、まずは営内班長(寮の中での上司のような感じ)からの説得があり、その後で先任(小隊での上司)→小隊長→中隊長というステップアップで面接のような感じの説得がありました。

さらに私の場合は少し特殊な事情があって、本来なら考えにくい大隊長との面接にも発展したわけですが、その後の小隊長や中隊長による説得方法が「お前のために大隊長がわざわざ時間を作ってくれたんだぞ」的なベクトルの説得一辺倒だったので、まったくなびくことはありませんでしたね。

「お前のために忙しい合間を縫って時間を作ってくれた大隊長に申し訳ないとか、これからも尽くしたいという漢気はないのか?」という感じで毎日のように言われたのを覚えています。

 

辞めると言い出してから実際に辞めるまでがキツイ

一般の会社でもそうですが、辞めると言って次の日に辞められるわけではないので、実際に退職できるまでの期間に気まずさを感じる人は多いでしょう。もしかしたら嫌な仕事を押し付けられたり、嫌味なことを言われたりするんじゃないかという不安もありますよね。

自衛隊では、多くの人は寮生活を強いられているので、もし「辞めると言い出したことによる嫌がらせがあるのだとしたら、それが24時間続く」ということになります。中隊長にしか相談していないことが、簡単に噂として広まるなんてのは日常茶飯事です。

中隊長と仲の良い一般隊員なんてほとんどいませんから、中隊長が自分より少し下の部下に「あいつ辞めるって言ってきたけど何か悩みとかあるの?」と聞き、それが少しずつ下に繰り返されていく過程で最終的には部隊中に噂として広まるんだと思います。

苦手な体育会系の先輩に「何?お前、辞めんの?」と詰め寄られる光景を想像してみてください。毅然とした態度で「辞めさせてください」と言える人たちばかりではないというのも理解できるのでは?

 

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なぜ説得がすごいのかについて考えてみた

私としては「よほど有能な隊員で彼が居なくなってしまうことは部隊にとって大打撃だ」と考える場合のみ、軽く説得してみればいいという考えです。

なので、そうでもないような一般の隊員をここまで引き留める理由がわからなかったのですが、左遷されて暇になった時期に「なぜ自衛隊を辞めると言った時の説得がすごいのか」について真剣に考えたことがあります。

  1. 自分の隊から退職者が出ると、幹部たちの評価がマイナスとなる
  2. 人員が減ると来季の予算が減らされる可能性がある
  3. 情報漏洩される可能性を少しでも減らしたい
  4. 自分より下の人間が減っても良い事がない

私が思い付いたのは大きく上記の4つです。私が勝手に考えたことなので事実と異なることもあるでしょうが、当たらずとも遠からず的な部分はあるかと思います。

自分の隊から退職者が出ると、幹部たちの評価がマイナスとなる

もし部隊から退職者が出ると、そこの長が「人望の無い幹部」のようなレッテルを貼られ、昇進に響くなどマイナスの査定要素があるのではないかという想像です。

実際、大隊長までにもなると掌握している人員が多いので、1人や2人辞めたくらいでは痛くもかゆくもないと思うのですが、これが中隊長や小隊長となると1人辞めたことによる影響が大きいため、私が辞める時は中隊長の説得が1番強かったのではないかと思いました。1000人の中から1人辞めるのと、100人の中から1人辞めるのとでは違いますからね。

一般の会社でも特定の管理職の下でだけ部下が育たないみたいなことになれば、それより上の人たちはそれを問題視するのではないでしょうか。

 

人員が減ると来季の予算が減らされる可能性がある

自衛隊に居た時に強く感じたのは「予算を減らされないようにしないと…」という変な強迫観念です。何やら「予算を余らせてしまうと、来期の予算が減らされてしまうから、余ってる分は何としても使い切らないと!」という考えがあるようで、普段は節約を心掛けているのですが、予算が余っている時の無駄遣いっぷりは目に余るものがありました。

例えば演習場の整備等に行くにしても、普段は下道を通るのに無理やり高速道路を使ったり、大して汚れていない車を洗車し始めたり…。それを考えたら「人員が減る=予算が低く見積もられてしまう可能性」も無くはないんじゃないかと思います。

 

情報漏洩される可能性を少しでも減らしたい

自衛隊は機密事項の宝庫です。私のような元陸上自衛官が、外で「元陸上自衛官が内部事情を暴露する」みたいなことをやり始めないようにするには、最後まで監視下に置いておきたいと考えるのが自然ではないでしょうか。

私も内部事情と機密事項はわきまえているつもりですし、退職する際に「機密事項は漏らしません」というような書面にサインをさせられました。しかし、なるべく「内部事情を知った人間は外に出したくない」というのが本音かもしれません。

 

自分より下の人間が減っても良い事がない

自衛隊は1年でも早く入っていれば、例え階級を越されることがあっても先輩ぶることが可能です(年齢を重ねていくと、なぁなぁになってくる部分はありますが)。

自分にとって目の上のタンコブのような先輩が辞めるのであれば大歓迎かもしれませんが、自分の部下が辞めるということは「雑用をしてくれる人間がいなくなる/自分が指示できる人間が減る」ということなので、あまり歓迎できることではありません。

一般の会社なら、社員が減るとなれば残った社員にその分の給料が還元される(あるいは会社の金銭的な負担が減る)ということがあるのかもしれませんが、自衛隊において辞めた隊員の給料が他の人員の給料に加算されるということは無いので、単純に「厄介ごとを解決してくれる駒が減る」という考えに直結するのではないかと思います。

 

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私が退職した時の体験談

私が退職したのは10年ほど前ですし、部隊によっても違いがあるのであくまで参考程度に留めてください。私はある時、急に自衛隊にいることが嫌になって退職を願い出ました。

私が陸上自衛隊を辞めた理由|パワハラで精神が崩壊しかけた日のこと

 

年明けすぐに中隊長に「辞めようかと考えている」というニュアンスの相談をし、その時は「まず冷静になって考えろ」と諭され、4月の退職は諦めて翌年も頑張ってみるという結論に。そしてゴールデンウィーク明けに「やはり無理だ」と感じたので、今度はハッキリ「辞めさせてください」と言いに行きました

そこから色んな偉い人たちによる説得が始まったわけですが、終始毅然とした態度で「もう続ける意思はありません/絶対に辞めます」と言い切り、最終的には「辞職を許してくれないなら脱柵します」くらいに言った記憶があります。ここでようやく「そこまで言うなら分かった」と言ってもらえました。

 

私としてはゴールデンウィーク明けに辞職を表明したので「夏には辞められるのかな?」と思っていましたが、そうは問屋が卸さず…。部隊から「来年3月一杯を持って退職とする」と言われ、翌年4月に晴れて自衛官を退職したという感じです。

ぶっちゃけ、辞めると言ってからの雑用の押し付けられ方はハンパ無かったですね。「辞めると言っただけで、ここまでするかね?」と思いました。まぁ当時の私は若かったこともあってか生意気な部分もあったと思うので、そこはお互い様なのかなぁと。

ただ、ああなることを最初から危惧していたら、真正面から「辞めさせてください」と言いにくい人が出るのも仕方ないと言う気がします。

 

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まとめ

世の中には簡単に「逃げ出すくらいなら普通に辞めたらいい」と簡単に言う人がいますが、大きな組織ほど簡単に辞められない事情があるような気がします。

あとは暴走族とかヤクザとか不良グループとか…。血の掟じゃないですけど、結束感みたいなものを重視しているグループや組織も抜けにくいというイメージがありますよね。そう考えたら国家レベルの大きな組織で、結束感を重視している自衛隊は辞めにくい組織なんじゃないかと思いました。

個人的には「死ぬくらいなら逃げ出せ」と思いますので、辞めないことによって精神が崩壊しそうなら脱柵でも何でもすればいいじゃんという考えです。ただ、脱柵した後の面倒くささに耐えられる根性があるなら、正面切って辞めると言った方が遥かに楽なことは間違いないでしょう。

この記事を書いた人

元陸上自衛官のレトロ軍曹です。20歳の頃に入隊し、自衛隊には6年間在籍していました。仲の良い現役自衛官と今でも交流があるので、定期的に取材みたいなことをしつつ、自衛官を目指したいという人に向けて「もとじブログ」を運営しています。

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