元陸上自衛官のレトロ軍曹です。
私が陸上自衛隊に在籍していた時は、普通に「これってパワハラ案件じゃね?」と思うようなことが多々ありました(当時パワハラという言葉は、ここまで一般的ではありませんでしたが)。
そして理不尽な経験をしたことも多々あるのですが、今でもたまに思い出すのは「新隊員教育」です。もちろん当時は腹が立ちましたし、もう二度とこんな思いはしたくないと思いました。
それが不本意なのですが、今では良き想い出として残っているんですよね。そこで今回は「新隊員教育時の理不尽なあれこれ」について書いていきたいと思います。
新隊員教育期間は入隊から6ヶ月間
陸上自衛隊では入隊~最初の三ヶ月間が新隊員前期教育、そこからまた三ヶ月間が新隊員後期教育という感じで、半年間に渡って教育が実施されます。
前期は主に自衛官としての訓練、後期はそれぞれの適正に沿った訓練ということになるのですが、これがまぁマイルドな奴隷生活と言いますか…。私にとっては結構屈辱的な日々でした。
▶自衛隊生活で最も屈辱的な経験|年下の先輩に横暴な振る舞いをされた
入隊直後はお客さん扱いをされるものの、入隊式が終わってからはもう自衛隊の一員扱いになるので、そこから一気に厳しくなります。しかもただ厳しいわけではなく、結構理不尽に厳しいんです。
入隊前の方は「どんな感じなんだろう?」という軽い気持ちで読んでいただき、教育中の人は「わかるわかる」なのか「これと比べたら自分はマシ/これなら自分よりマシ」なのか。
部隊によって当たり外れが大きいですが、ここでは私の実体験を元にご紹介していきます。
新隊員前期教育
なにかにつけて腕立て伏せ
とにかく何かあれば制裁として、腕立て伏せをさせられる3ヶ月間でした。
最も多かった理由としては「誰かが挨拶をしなかった」とか「時間に遅れた」とか「座学で寝た」とか、そんな感じの理由が多かったように思います。
…が、理由なんていくらでもでっち上げることが可能なので、特に意味はないですね。
▶パワハラ・理不尽の極み!教育中にやたら飛び交う「連帯責任」とは?
例えば「挨拶を忘れた/時間に遅れた」と聞くと、制裁があっても仕方がないという人もいるでしょう。「それでも体罰は反対!」という人がいる一方で「でも悪いことはしてるからなぁ…」という部分は否定できません。
ただこれに関しては「本当に挨拶を忘れたかどうかが不明/時間に遅れるように仕向けられる」などの嫌がらせがあります。
例えば「お前らの中の誰かが挨拶を忘れたという報告があった!」というような感じで言われ、全員が連帯責任の腕立て伏せです。誰が誰に対して挨拶をしなかったかなどの部分を明かされることはありません。
そして教育期間中は部屋の中に台風が来ることがあるのですが(後述しています)、散々ベッドをひっくり返したり部屋を荒らされている状態にも関わらず「10分で整理整頓して来い!そして時間には遅れるな」という感じです。
10分じゃまず整理整頓し終わることはできないので途中で切り上げて向かうと、行った先で「整理整頓がなってない!」という理由で腕立て伏せをさせられるという…。
当時は「こんないじめみたいなことをして給料を貰っているのか、この人たちは」という感じで、教官たちに対して怒りを通り越して呆れていたのを覚えています。
部屋に台風が来る
教育期間中は、部屋に台風が来ます。
どういうことかと言うと、新隊員が教育を受けている際中に教官の誰かが勝手に部屋に忍び込んで、ロッカーやら寝具やらをめちゃくちゃにしていくというものです。
私の部屋では二段ベッドが逆さまにされていたり、ロッカーの中の物が全部引っ張り出されていました。班員のパンツを集めて、外の木にぶら下げていたのは完全に悪意の表れだったと思います。
ちなみに私が教育を受けてた頃は、貴重品に関しては小さい鍵付きの箱に入れるように言われていたので、携帯電話や財布などが荒らされることはありませんでした。
しかし衣類や下着などは全滅ですし、ベッドの足に靴下が履かされていたりして「やっている側が明らかに楽しんでいる感じ」がしましたね。
ちなみに「なんでこんな意味のないことをするんだろうか?」とずっと疑問に思っていましたが、自衛隊生活も長くなった頃にその話をしたら、とある先輩隊員が「お前は日本のどこかで理不尽な災害が起きてしまった時もそう言うのか?」みたいに言ってきたのを覚えています。
その先輩が言うには、災害はいつも理不尽なものであると。それに疑問を持ったり愚痴ったりするのではなく、いかに早く状況を改善するかという部分に注力することが重要だと言っていました。
言ってることは素晴らしいと思いましたし、屁理屈っぽいなぁとは思いながらも変に納得させられる部分はあったので、その時は「は、はぁ…」というリアクションに留まりましたが…。
普通に考えて日本のどこかに災害がくるのと、部屋に人為的な台風がくるのとでは根本的な部分が違うと思うけど(だから私は合わなくて辞めることになりました)。
後半は和気あいあいとした雰囲気
確か3月後半に入隊で、5月の終わり頃にはもう理不尽なこともだいぶ減ってきて、6月にもなれば和気あいあいとした雰囲気があったような気がします。
教官隊員の中には「こんな嫌な奴もいるんだな」という人間もいましたが、それが演技でやっている(あるいは自分より立場が上の人間に命じられて『やらされていた』)ということに気付いたのもこの頃です。
6月にもなれば後期教育を他の都道府県で受けることになった新隊員なんかも出てきて、新たな教育の準備もあるせいか、理不尽さはほとんどなくなったように記憶しています。
ちなみに私の時は100名前後の新隊員全体で十数名が県外に出なくてはならず、希望者が出なかったので「班で話し合って1人決めろ」というのが、最後の理不尽というか「そういう重要なことはそっちで決めてくれよ」という感じでした。
中にはジャンケンに負けて県外に行くことになった人間もいたので、この辺りは理不尽と言うか残酷な世界だなという気がしなくもないです。
新隊員後期教育
前期とは比べ物にならないくらい親切な教育
私は地元から2つほど隣の都道府県で後期教育を受けることになりました。
そして前期教育みたいなものがまた3ヶ月始まるのかと憂鬱な気持ちだったのですが、私の場合は後期教育では理不尽な思いをしたことが一切無かったです。
とにかく教官たちが親切で、最初は「油断させてから後で徹底的にやってくるつもりかな?」と思い気を引き締めていたにも関わらず、そういう理不尽はないまま3ヶ月が過ぎました。
ちなみに3つの隊があったのですが、残りの2つは点呼後に腕立てなんかを結構させられていて、私で言うところの前期教育の延長線上のような感じだったので、単に私の後期教育がぬるかっただけかもしれません。
後期教育に行って初めて前期教育の差を知る
私が後期教育に行って驚いたのは、「前期教育にて教育カリキュラムが統制されていない」という点です。
自衛隊に入るとやたら統制と言われ、全員で同じ行動を取ることを重んじられるのですが、前期教育で習う内容が統制されておらず、良い意味でも悪い意味でも後期教育になってから戸惑うケースが大量に出てきます。
私の例で言えば、前期教育では「自衛隊体操というものがある」ということは聞かされていましたが、実際にそれがどんなものかを教えられたことはなく、後期教育でいきなり「やれ!」と言われて戸惑ったりしました。
あとは射撃用の銃の取り扱いです。私は前期教育で89式小銃の取り扱いを学んでいたのですが、後期教育では64式小銃だったので、銃の分解結合も一から勉強するという感じでした。
ちなみに前期教育のノリなら連帯責任なんかをチラつかされて、課業外の時間を使って覚えろと言われたと思います。
しかし私の時は課業中に教えてもらいながら、それでも足りない人間だけ教官に付いてもらって課業外に修練するという感じでした。
配属先の部隊は教育隊長が決めた
私の場合、前期教育の進路は自分たちで決めさせられましたが、後期教育で「どこの部隊に配属されるか」については、区隊長・助教が決めました。
当然、枠の問題があるので希望通りにいくわけではありません。私の時は地元から出てきたのが私ともう1人の隊員で、どちらも地元に戻りたいという希望を出していました。
それについて「成績で決める」と言われたので、私は必死になって勉強したにも関わらず、最終的に「成績で決めるとは言ったけど、良い方が希望通りになるとは言っていない」と言われたのが、後期教育中の唯一と言っていいくらいの不満でしたね。
ちなみにこれくらいの頃になると、自分たちが配属される部隊の候補の噂なんかが聞こえてくるので、ちゃんとリサーチして希望を出しましょう(自分と合わない部隊に配属されると、結構地獄だと思います)。
教育中の理不尽さについて
最初は「ナメられないように」という意味合いが強いのでは?
中学や高校なんかでは、先輩でも人によっては後輩にナメられている人がいませんでしたか?これを防ぐ意味合いも含めて、新隊員教育中に関しては割と徹底的にいじめるのかなと思いました(新隊員中に限らず、教育中は結構やられます)。
動物を使ったサーカスなんかでも「最初は人間の強さを見せつける→そして服従させる」みたいな話を聞いたことがあるので、結局はそれと一緒なんでしょう。
一般社会の考えでは「パワハラ反対、暴力反対」という風潮が強く、ちょっと叩いただけでも体罰だなんだと騒がれているじゃないですか?
私は「自衛隊から体罰は無くならないのでは?」と思います。理由として、そうなってしまうとナメられる先輩隊員が大量に発生するような気がするからです。
▶陸上自衛隊時代に体験した体罰の話|意外と知られていない内部事情
私が陸上自衛隊に在籍していたのは10年前ですが、10年でそんなに変わるとは思えないくらい日常的に暴力や体罰がありました。
そして今思えばですが、何でもかんでも歯向かうのではなく、上の言うことに従うことも重要だということを知らしめる意味で「新隊員教育の理不尽さ」が必要なのかなと思っています。
理不尽だった前期教育の方が思い出深い
私は理不尽な前期教育と人道的に扱ってもらった後期教育を比べて、後期教育の方が明らかに教官たちの人間性も優れていたと思っていますし、教育はこうあるべきだとも思っています。
しかし残念ながら、思い出に残っているのは新隊員前期教育の方です。
これは非常に心外ですが、前期教育であれだけ理不尽なことをしてきた教官たちが実はプロだったのか、あるいは私が洗脳されて破壊されているのかは分かりませんが、どっちが良い思い出かと聞かれると「前期教育」と答えてしまうんですよね。
そして内容をしっかり覚えているのも前期教育であり、それも思い出したくもないような嫌な思い出という感じではなく、笑ってしまうような思い出になっています。
もし教育中に理不尽な思いをして「あいつ、ふざけんなよ」と思っている人がいたら、それもいつか良い思い出に変わるかもしれないので頑張ってください。
もし頑張れないくらいやられたなら、それは教える奴に才能が無いだけだと思って、他の道を探してもいいと思います。
最後に
私が在籍していた頃と大幅に事情が変わっている可能性もあるので、真相はご自身の目で耳で確認していただけたらと思います。
個人的には「理不尽にやられる」と覚悟していれば、実際にそうなっても予想の範囲内ですし、もしそういうのが無ければ「それはそれで良し」となるので、どっちにしてもOKなのでは?(理不尽にやられるのは嫌ですが)
いずれにしても当たり外れが大きく、あまりにもひどいと感じる時は行き過ぎている可能性もあるので、これが当たり前だとは思わないことです。
多少は我慢することも必要ですが、あまりに我慢しすぎて追い詰まれないように注意してください。応援しています。