元陸上自衛官のレトロ軍曹です。
私がかつて自衛隊に在籍していた頃、私は自衛隊員であることを恥ずかしいと思っていました。なので入隊した際には、これまでの交友関係を全てリセットしましたし、自衛隊であることを隠せる場面については「自営業」と名乗っていました。
そんな私だからかもしれませんが、自衛隊の部隊で飲み会に行く時、「周りにはこの団体がどう見えているんだろうか?」と不安になったことがあります。
男はみんな髪が短く、そこそこゴツい体型の人間が多くて、バカみたいに騒いでいると。おまけに「〇〇3曹!」だの「隊長!」だの呼んでいるときたら、もうバレバレですよね。
個人的にはこれがメチャクチャ嫌いで、今思い出しても恥ずかしいです。
というわけで今回は、自衛隊員はプライベートでも軍曹だの二等兵だの階級で相手を呼ぶのか問題について書いていきたいと思います。
自衛隊入隊時、人を呼ぶときは階級を付けろと教わる
自衛隊入隊時、多くの人は「2等陸士」という階級からスタートします。海上自衛隊なら2等海士、航空自衛隊なら2等空士です。
同じ部屋でこれから一緒に自衛隊生活を続ける仲間は、いわば同僚と言うべき存在なのですが、彼らを呼ぶときは「〇〇2士」と呼ぶように指導されます。
相手が年上だろうが年下だろうが関係なく「〇〇2士」です。班長は「〇〇3曹」だったり、区隊長は「〇〇曹長」だったり。
自衛隊という特殊な世界なので、上官に対して階級を付けることはスッと馴染むことと思いますが、同期に対してずっと「〇〇2士」という人は、ほぼいないと思います。
影(班長の監視下以外)では呼び捨てにしたり、年上の同期隊員には〇〇さんと呼ぶ隊員も少なくありません。教育中もこんな感じですから、一般部隊に入ったらもっと顕著です。
私が所属していた部隊では、下っ端は先輩隊員に対して階級を付けて呼ぶものの、先輩は後輩隊員に対して呼び捨てがデフォでした。
新隊員教育時の内容は、建前上のものが多い
教育時もプライベートは好きに呼び合う
私が入隊した時は、勤務中はちゃんと〇〇2士と呼んでいましたが、仕事が終わったら普通に名字だけで呼び合ってましたし、〇〇2士と呼ぶことに対しても教育が進んでいくに連れてなぁなぁになっていった記憶があります。
教育する側も「こういう風習がありますよ」という指導のためだけで、入隊から1ヶ月くらいのうちは「階級付けて呼ばなかったから罰ゲーム!」的なノリがあったものの、徐々にそれはなくなっていきました。
教育隊にもよるんでしょうけど、大半の部隊でこのあたりは緩いんじゃないかと思います。
ちなみに同期なのに階級を付けて呼ぶ間柄は、仲の良し悪し以前に「すごく距離があって『あなたと仲良くする気はありません』的な意思表示」のようにも感じました。
外の世界で「〇〇士長」って呼ぶの嫌じゃない?
飲み会で山本士長が「上海焼きそば」を頼んだとします。そのテーブルには約10人ほどの陸士が集まっていて、わいわい楽しんでいるというような感じです。
ウェイター(あるいはウェイトレス)の方が来て「上海焼きそばのお客様ー!」と言いました。一旦受け取って、「上海焼きそば、頼んだ人ー?」と聞いた時に、店員さんがまだいるにも関わらず「山本士長!」っていうの、あれ辞めませんか?
私はこれが本当に嫌で、頑なに「プライベートにおいて駐屯地を一歩でも出たら、先輩隊員は『さん付け』で呼ぶこと」を徹底していました。
ただ、私が陸士時代に仲の良かった3等陸曹くらいまでなら、さん付けで呼ぶのもそこまで抵抗ないんですけど、さすがに隊長とか2曹以上のベテラン隊員に対して階級を付けないというのは、かなり抵抗があったので、一般の人に聞こえないような声量で呼んでいたのを覚えています。
それから私は自衛隊のサッカーチームに所属していて、一般のサッカーチームと対戦する機会が何度もあったのですが、隊長がボールを持ってセンタリングを待つ時に、エリア内の隊員が「隊長!隊長!」ってアピールするの、すごく嫌でした。
一般の人も苦笑していたような感じでしたし、一般の人に「7番が隊長なのね」と思われるのも嫌でしたし、私をマークしている人に「こいつは部下ね」と思われるのもすごく嫌でした。
ある程度、キャリアを積んでからの探り合いも面倒
陸曹が陸士を呼ぶ場合、全部が全部そうだとは言わないまでも、よほど早くに昇進したという場合を除けば「陸曹が陸士を呼び捨てにしても、あんまりリスクはない」です。
しかし「士長同士/3曹同士」とか「3曹と2曹」という関係性になると、ぶっちゃけどっちが先輩かというのは、探っていかないと分かりません。
これは某テレビ番組でもよくやっている「どっちが先輩芸人かハッキリさせよう」的な企画に似ているのですが、芸人さんの世界と一緒で、自衛隊でも「1日でも早く入隊した方が兄さん」的な風潮があります。
階級が高い方が偉い「階級社会」と言われている一方で、根底には「1日でも自衛隊で飯を食っている方が偉い」という部分があるので、最初はどっちも敬語で接しながら少しずつ探りを入れていくことが多いです。
▶階級社会と言われるが実際は〇〇|階級だけでは語れない自衛隊の序列
この時、今まで敬語で喋り合っていた関係から「なんだ、お前後輩かよ!」と180°切り返される瞬間の空気感、すごく嫌でした。
自衛隊ではお笑い界ほど「先輩は後輩にご飯を奢りなさい」というような、後輩に対する恩恵があまりないので、後輩だとバレてしまうことは百害あって一利なしです。
▶自衛隊とお笑い界の上下関係の違い|先輩は後輩に奢ってくれる?
最後に
自衛隊では、最初の教育中こそ「相手は階級を付けて呼べ」と指導されますが、徐々にそれは緩やかになっていきます。
入隊から半年経って一般部隊に配属される頃には、「同期や後輩は好きに呼んで、自分より序列が上の人にだけ階級を付けて呼ぶ」という流れになることが多いでしょう。
もしかしたら私のように「外の世界で階級を付けて呼びたくない」と考える人もいるかと思うので、そういう人は「さん付け」で逃げるといいです。
自分より1まわりも2まわりも先輩の隊員を呼ぶ時、または幹部を呼ばなければならない時は、ちょっと「さん付け」でも違和感があるので、こういう場合はシチュエーションそのものから逃げることをおすすめします。