元陸上自衛官のレトロ軍曹です。
私は20歳の時に陸上自衛隊に入隊し、6年間勤務しました。
入隊する前は「自衛隊なんてできれば入りたくない」という気持ちが強かったのに、入ることを決めてからは「一生陸上自衛隊員として勤めあげる」という気持ちで入隊したのを覚えています。
そんな私が、なぜ陸上自衛隊を辞めたのか。
この記事では現役自衛官の方の中で「自衛隊を辞めたい」と考えている人に対するアドバイスや、これから自衛隊への入隊を考えているという読者の方に向けて「こういう理由で退職する人間もいますよ」という意味で、私の実体験をご紹介したいと思います。
自衛隊の入隊理由
ハッキリ言って、自衛隊の内部は私が想像していた通りの所でした。
私はネガティブな考えをする人間なので「私のような理屈っぽい人間が、自衛隊にいるようなゴリゴリの体育会系の人と合うわけがない」と感じていましたし、入隊前に「理不尽なことを相当言われるんだろうなぁ/無能な先輩からの陰湿な嫌がらせとかあるんだろうなぁ」という不安が数多くありました。
結論から言うと、多少の重い・軽いはあるにしろ基本的には想像通りで、そうと分かっていたのに危惧していた部分が原因で「もうやっていけない」と思い立って辞めることになります。
そもそも私の場合は、自衛隊も入りたくて入ったわけではないような感じなので、ちょっと特殊な感じですが。
▶私が自衛隊に入隊した理由|最初は入隊する気が1ミリも無かった
私が自衛隊を辞めるのを決意した瞬間
私が自衛隊を辞めた理由は複数ありますが、辞めることを決断した瞬間についてもハッキリと覚えています。
今では笑い話の1つですが、私が「あ、もう無理。辞めよう」と思った直接的な瞬間は、年下の先輩から「脚立を洗え」と命令された瞬間でした。
私は隊長から脚立を借りてくるように言われ、A士長の部隊から脚立を借りて使用し、綺麗に整備してから返却しました。その後、別の人がその脚立を勝手に借りて使用し、汚れた状態で返します。その汚れた脚立を見たA士長が、私に向かって「ちゃんと整備してから返せ」と言ってきたという感じですね。
この先輩はいわゆる外様で、別の部隊から移転してきた隊員でした。最初は私の階級章を見て先輩だと勘違いしてペコペコしていたのですが、私の方が半年後輩だと気付いた瞬間に態度が急変したので、私もあまり好きじゃなかった人物です。
「洗って返せ」「洗って返した」という、私とA士長が軽い小競り合いのようになって事態が大きくなると、私が返却した後で脚立を使用して整備し忘れていたという人物が出てきます。
私はここでA士長が私に「勘違いしてた、すまない」と謝って終わりかと思っていたのですが…。今でも一語一句覚えています。「俺が貸したのはキミに対してで、キミが洗って返すのが筋だ。俺はキミが脚立を洗ったところを見ていない。だから今洗え」と言われたんです。
今なら「無茶苦茶やん!」と言って笑えますが、当時は後輩の私が「お前まじで言ってんのか?」という方向に行ってしまったので、A士長としても後輩に舐められてはいけないと思って、引くに引けなかったのではないかと思います。
私は年下の先輩に命令されることに関してはもう免疫があったので、そこに関しては何も思わなかったのですが、言い分のメチャクチャさと「キミ」という呼称に腹が立ったんでしょう。
この人は私の名前も覚えていないうえに、勢いだけで文句を言いに来たんだなぁと。
結局、隊長クラスの耳まで話が届く騒ぎとなり、どっちが悪いというのはハッキリさせることもなく、私が脚立を綺麗にして返せば事は収まるということで、もう嫌味なほど綺麗に磨き上げて返却し、その足で中隊長室へと向かって退職を願い出ました。
私が自衛隊を辞めた理由
前項に書いたのは、あくまで辞めることを決断したキッカケの出来事です。
時期的にはゴールデンウィークが明けた頃でしたが、私はこの年の頭にも「自衛隊を辞めようかな」と考えていたので、辞めようか続けようか悩んでいたところをA士長によって辞める方向に後押しされたという感じですかね。
いや、もしかしたら辞める理由を探していたのかもしれません。ここからは私が自衛隊を辞めた理由、辞めようと揺らぎ始めた理由についてご紹介したいと思います。
自衛隊=カッコ悪いという認識があった
私は自衛官がカッコ悪い職業だと思っていました。名前を書けば合格できる試験で選ばれて、誰でも入れるのが自衛隊だと思って見下していました。
辞めた今ではそんなことは微塵にも感じませんが、自分が自衛官だった頃は友人たちにも「自衛隊に入った」とは言えず、友人関係を一旦リセットしたほどです。
こういう状態だと何もかもが嫌で、駐屯地から出る際に敬礼してから出るという所作の1つ1つが気持ち悪いと感じますし、身分証を大事そうにベルト部分に縛着している状況も気持ち悪いと思っていました(というか縛着という表現も気持ち悪い)。
ふと冷静になった時に「俺はこんな感じのことをあと30年近くも続けていくのか」と考え、いずれ子供が生まれたとして「うちのお父さん自衛隊なんだー」って言われるのが嫌だと感じたのも事実です。
ちなみに自衛隊で名前が書ければ入れるという事実はありませんし、今や試験の難易度は上がっていると言われています。
▶自衛官候補生試験って誰でも受かる?|受からない人の特徴を大暴露!
理不尽なことがとにかく多い
これは一般社会に理不尽なことが無いと言っているわけではありません。自衛隊には自衛隊特有の理不尽さというか、一般の方には伝わりにくい横暴さが多かったという印象です。
個人的には「理不尽なことにもう耐えられない」と考える人に対し「そんなのどこに行ったって一緒だぞ」と言う人が多いことを疑問に思っていて、ここを真に受けてしまうと「もう耐えられない→どこに行っても一緒なら死ぬしかない」という考えになってしまう人が出てくるんじゃないかと思っています。
自衛隊の部隊にもよると思いますし、辞めた後で就職する会社にもよると思いますけど、よほどのことが無い限り、自衛隊よりも理不尽なことがまかり通る会社は少ないんじゃないかなというのが私の考えです。
もちろん例外は山ほどありますが「だったら自分の目で確かめてみたら?」と思います。現に私は自分の目で確認してみたところ、自衛隊を辞める時に言われた「シャバはキツイ/自衛隊を辞めると一生後悔する」などの説得が、そうでもないんじゃないかと感じました。
私は陸上自衛隊を途中でドロップアウトした人間ですが、強がりでも何でもなく「自衛隊を辞めたことを後悔していない」と断言できます。
恋愛関係の悩み
私は自衛隊の入隊時~退職時の6年間に、彼女が1人もいませんでした。
「できたら欲しい」という感情はありましたが、自分から積極的に動くということはしませんでしたし、職場が同じ女性自衛官の人から「良い人いるんだけど会ってみる?」という紹介の話を貰えたことは何度かあったものの、それに乗っかったことは無かったです。
▶自衛官同士の恋愛ってアリ!?駐屯地内で育まれる恋愛事情について
理由としては、恐らくですが「自分のような坊主の男と一緒に歩くのが可哀想」とか「いずれ地元に戻りたいと考えている自分が、転勤させられた今の新天地で恋人を作るのってどうなんだろうか?」という葛藤があったのではないかと思います。
単純にモテる方ではなかったので、自信が無かったというのもあるでしょう。それを自衛隊のせいにしていた感もあります。
ただ、自衛隊には女っ気がなくていつまで経っても結婚せずに寮の中に残っているオッサン隊員も山ほどいるので、そういう人を見て「自分はこうはなりたくない/一般会社員なら門限もないし、うまくいけば同棲だって…」的な考えがあったのかもしれません。
寮生活、有事の際の招集、飲み会が苦痛
第一に、誰かと一緒の部屋で寝るということが嫌でした。私は相当ガサツな方ですが、それでも精神的に堪えたので、神経質な人だとまず務まらないです。
最初は先輩と一緒の部屋に放り込まれて苦痛だったものの、その先輩も理解のある人でしたし、その後は気の合う同期や仲の良い先輩と同じ部屋だったので、私は相当恵まれている方だったと思います。それでも嫌なものは嫌でした。
そして自衛隊には「震度〇以上が発生したら、すぐに出動する」というルールがあります。なぜかわかりませんが、私の休みの日に限って地震が来たんです。せっかくの休みが潰れてしまうという不信感や、夜勤明けで寝ていない時のイライラなどもあり、少しずつ不満が募っていきました。
そしてそれが朝ならまだいいのですが、夜となるとお酒を飲んでいる人も多いので、普段からお酒を飲まない私のような人間は、馬車馬のごとく利用されます。急に泊りがけで出動ということもあったので、そういう部分も嫌でした。
そしてこれが1番かもしれませんが、飲み会が本当に嫌で嫌で…。
お酒が好きな人でも「できれば隊の飲み会は出たくない」という人が多いのに、お酒を飲めない私のような人間が出たくなるわけがないでしょう。お金を払って免除されるのであれば、余裕で1万円くらいは出しても良かったです。
自衛隊生活には1週間くらいの山籠もりの演習なんかもあるのですが、それが終わったら真っ先にやりたいことって何だと思いますか?
私は「顔を洗いたい/歯を磨きたい/服を着替えたい/シャワーを浴びたい/身体や髪を洗いたい」だったのですが、真っ先に行われるのは宴です。1週間断酒していたから、真っ先にお酒が飲みたいらしいです。こういう部分も全く価値観が合いませんでした。
そして、辞めたい理由を色々考えた時に「これらの幾つかは、自衛隊を辞めれば解決する問題なのでは?」と思ったので、辞めることを検討し始めたという流れです。
やはり毎日お風呂に入りたかったですし、毎日歯を磨きたかったです。山籠もりなんて年に数回しかないとは言え、トイレで用を足せないとか今思い出しても苦痛ですね。
辞める直前は精神状態が相当おかしかった
ここまでの文章は、当時の私の感情をそのまま書きなぐったものに、一部今の気持ちを加えた感じで書きました。彼女が~の下りは、相当病んでいたのが伝わる内容じゃないかと思います。当時は本気で「自衛隊にいると結婚ができない」って思ってましたから。
私くらいの図々しさがある人間でも精神を病んでしまうのに、真面目な人だと本気で壊れてしまうんじゃないかと思います。
しかもおかしい時は自分がおかしいとは気付かないことが多いので、それもまた怖い部分です。外に一般の友達とかがいるなら世間の空気を身体に入れてリフレッシュしてみては?
自衛隊を辞めて後悔していないかどうか
ここについては強がっているわけでもなく、本心から「辞めたことを後悔している気持ちは微塵もない」と言い切れます。
▶自衛隊を辞めてから10年「今まで一度も後悔していない」という話
ただ正確に言うと、当てつけのように「辞めて良かった」とも思っていないです。
続けられるなら続けていた方が、会社から得られる所得という意味では「自衛隊の方が稼げただろうなぁ」という気はしていますし、休みも絶対に多かったと思っています。
私の場合は、自衛隊という組織が自分にはとことん合いませんでした。
自衛隊を辞めた後に勤めた会社では、17時に仕事が終わるなんてことはないですし、連休も3連休以上なんか滅多にありませんけど、自衛隊の時には感じなかった大きなやりがいを感じましたよ。
結局は向き・不向きで、楽をしてお金を稼げるから幸せだとは限りません。
そして自衛隊が楽だと考える人もいれば「仕事は楽かもしれないけど、仕事以外の部分がきつい」と感じている現職の自衛官の人は山ほどいるはずなので、本気で悩む前にまずは自分を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
まとめ
私が自衛隊を辞めた理由は以上となります。
細かいことを言えばもっと出てくるかと思いますが、大体は「理不尽な人間との寮生活が苦痛→結婚しない限りはしばらく寮から出られない→自衛隊にいるうちは結婚できないのではないか→寮にいるうちはずっと飲み会に誘われる→飲むのも苦痛、飲まなくても都合よく利用される」などの不満が溜まりに溜まった結果です。
そんな時にたまたま嫌なことがあったので、爆発したんだと思います。
あの時爆発していなかったとしても、いずれは辞めていたと思いますが、自衛隊を辞めた今の方が人間味は出たんじゃないかと。
もし当時の私のように「自衛隊を辞めようか悩んでいる」という人は、私ができることであればアドバイスさせていただきますので、気軽にお問い合わせください。