命の次に大事だと言われる自衛官の身分証明書、失くしたらどうなる?

命の次に大事だと言われる自衛官の身分証明書、失くしたらどうなる?

元陸上自衛官のレトロ軍曹です。陸上自衛隊では、入隊時に「身分証明書」を支給されます。これは外出時などの、ありとあらゆる場面で必要なもので、支給されるときに「君たちの親の命よりも大事な物だ」と言って渡されました(その話を親にしたら、ウチの親はメッチャ切れてましたけど)。

そんな自分の命の次に大事な身分証、「絶対に失くすなよ!」と徹底指導されますが、ごくごく稀に失くしてしまう隊員が出てきます。入隊当初はカード入れのような物に入れ、それを更にズボンに縛り付けたりするんですが、人によっては自衛隊生活になれてきたタイミングで単にポケットに入れるようになったり、単にバッグの中に入れるようになるようです。

そして、ただでさえ自衛隊の寮内では盗難事故や物品の紛失事故が少なくないので、常に鍵の掛けられる所に保管しておくのが望ましいのですが、いかんせんこれが面倒だったりします。というわけで今回は、陸上自衛官が身分証を失くしたらどうなるかについての話です。

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自衛官が駐屯地の出入りをする際は、身分証を提示する

駐屯地の前に見張り役の自衛官が立っている光景をみたことがありますか?駐屯地に出入りする際はこの人に通行証のような物を見せることで、駐屯地を出入りすることが可能になります。自衛官が外出する際は身分証を提示しますし、駐屯地の売店などに出入りする業者もそれなりの身分証を携行しており、原則として身分証の提示がなければ駐屯地の出入りは出来ません

なので「生活寮(営内)から身分証を持ってくるのを忘れた!」という場合は、門まで行ってから営内に戻りますし、「外出先で身分証を失くした!」となれば、駐屯地内に入れなくなってしまいます。

見つけるまで入れないということは無いでしょうが、入るまでに色んないざこざがあることは間違いないです。

 

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身分証は常に身に付けておけと指導される

私が在籍していた頃は上記のようなケースに身分証を入れ、それをチェーンか何かでズボンのベルトを通す所に繋いで、決して落としたりしないようにしていました。周りがみんなそんな感じだったので、外出先で坊主頭で体格の良いガラの悪そうな大人を見たら「腰のあたりにチェーンが無いかどうか」を見れば、大体自衛官かどうかということが判断できたんですよね。

ちなみに、そこまで徹底して「なんで失くすのか?」という話ですが、私が思ったのは「温泉、海水浴、プール」あたりの、服を脱ぐ瞬間はリスキーだということです。

 

私はあまり温泉やプールに興味がないのでアレでしたけど、自衛隊の集まりでスノボに行ったり、海水浴に行ったりという機会は結構あったので、その帰りに「温泉にでも入って行くか!」となれば、その脱衣所でやられる可能性はあるような気がします。さすがに温泉内に身分証を持って入るわけにも行かないですし…。そういう場所のロッカーなんて、鍵があっても無いようなものですから。

ちなみに私の先輩隊員に身分証を紛失した張本人がいましたが、その先輩は「バッグの中に身分証を入れていて、そのバッグを車に入れたままちょっと出かけた時に、車上荒らしにやられた」という感じでした。たまたまパソコンか何かを買おうとしていたようで、財布にも数十万円入っていたようでしたが、「財布の金はくれてやるから、身分証だけは返してくれ!」と言ってたのを覚えています。

 

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身分証を紛失したことのペナルティは相当重い

身分証を失くした先輩は階級が3等陸曹で、かなり優秀と言われている隊員でした。この1件は、恐らく彼の昇進スピードにも影響を与えたことでしょう。

陸上自衛隊の階級の話|幹部になりたい?昇進したい?

 

さすがに陸曹隊員に対して、ペナルティとして死ぬほど腕立て伏せをさせるとかそういうことは一切無く、どちらかというと「無言のプレッシャーと始末書の嵐」という感じでしたね。中でも始末書は同じことを何回も書くことになるわけですが、自分に非があるのは間違いなので、内容は同じでも言い回しを変えて書いたりなど大変そうでした。

大隊で始末書を書いて、中隊で始末書を書いて、小隊で始末書を書いて…。組織から与えられる直接的なペナルティは減俸だけだったと言っていたような気がしますが、周りからは昇進するスピードにも影響があるという声も聞こえてきましたし、当の本人は自主的に坊主頭にして外出も控えていたので、その辺の空気を読むことも重要なのかもしれません。

彼のペナルティが一通り終わった後、幸か不幸か身分証だけは落し物として交番に届けられていました。

 

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番外編:双子なら身分証を借りて駐屯地内に侵入できる?

かつて友人から質問されたことがあるのですが、「見張りの奴も流れ作業だし、そもそも違う人間が来たとして気付くの?」と聞かれたことがあります。確かに身分証の写真は定期的に更新するものの、そこそこオシャレな髪型で撮った写真と、そこから坊主にした本人が同一人物かという判断をするのに、そんなに時間はかけません。

個人的には「よほど顔が違うなら止められるだろうけど、かなり似ているとか、あるいは双子がそれをやったら普通に通過できる」と思いました。ただ、実は駐屯地に出入りする隊員をよく見ると分かるんですけど、守衛室みたいなところにお辞儀したり、見張りの隊員に対してもお辞儀したりしています。

 

これ自体が自衛隊内のルールで定められていて、その行動に違和感があると「お前、ちょっと待て」的な感じにはなるかもしれません。前に本物の隊員がいれば、同じような振る舞いをして通過できるかもしれませんが、自転車を押している人と歩いている人で行動パターンが変わったりもするので、ここまで徹底しないとバレると思います。

これによって不審者、部外者が入ってこれないようになっており、正面を切っての駐屯地への侵入は極めて困難と思われます。逆に元自衛官でルールを把握していて、見た目で偽物だと判別できない身分証があれば、おそらく駐屯地に侵入できるはずです。

 

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最後に

身分証の紛失は本当に気を付けた方がいいです。私の場合は、実家に帰った時にズボンを履き替えてしまい、身分証を持たずに駐屯地に帰って、入口で気付くということをしたことがあります。

早めに駐屯地に帰っていたということもあり、そこから実家に帰って身分証を回収してから戻ってきても、まだ門限には余裕で間に合いましたが、あの時は頭が真っ白になりました。自分で紛失するならまだしも、誰かに盗まれるとか本当にシャレにならないので、現役自衛官の方はマジで注意してください。

自衛官時代にやらかしたエピソード(実話)|しくじり自衛官

この記事を書いた人

元陸上自衛官のレトロ軍曹です。20歳の頃に入隊し、自衛隊には6年間在籍していました。仲の良い現役自衛官と今でも交流があるので、定期的に取材みたいなことをしつつ、自衛官を目指したいという人に向けて「もとじブログ」を運営しています。

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