元陸上自衛官のレトロ軍曹です。
先日、ネットニュースを見ていたら「強制的に1人5,000円 剣道の強豪校の総監督、自身の誕生日に合わせて部員から集金」というニュースがありました。いわば監督という立場を利用したカツアゲです。
はっきり言って似たような事例は一般の会社にもあるでしょうし、自衛隊にも存在していました。中隊旅行の積み立てや小隊で飲むコーヒー等の代金、そして飲み会における「寸志」などです。
というわけで今回は「自衛隊在籍時に謎だった『寸志』という文化について」というテーマで進めていきたいと思います。
寸志とは?
寸は「ちょっとした」「少しの」「わずかな」といった意味として使われています。また、寸志の「志」は「思いやり」や「心遣い」「厚意」といった意味です。
つまり、寸志とは誰かに対して送る些細な心配りのようなもの、といえるでしょう。
一般社会では、送別会や懇親会などを開くときに寸志を出すケースがあるようです。ただしその形式は多種多様で、例えば上司が幹事に渡すケースもあれば、主賓がお礼の意味で出すケースもあるようです。
もしかすると引っ越し先でお隣さんに挨拶をする場合、さすがに現金を包んで持っていくということはないでしょうが、何かしらの手土産を持って挨拶に行くという行為も寸志に該当するかもしれません。
いずれにしても他者に強制されるようなものではなく、送る側の気持ち・心配りによるものでなければならないということは間違いないでしょう。
自衛隊にあった寸志という文化について
飲み会に参加しなくても(できなくても)寸志というカタチで徴収される
当然ながらあくまで私が所属していた当時、所属部隊での話です。すべての自衛隊の部隊においてそうだという意味ではありませんが、私が所属していた部隊には「飲み会に参加できない隊員は寸志を出す」というルールがありました。
ルールとは言っても暗黙のルールという意味で、もちろん服務規程などには記載されておらず、下っ端隊員からすれば「なんで自分が飲み食いするわけでもないのに、お金を出さなきゃいけないの?」と感じるような出費です。
領収書を切ってもらえるわけでもないので、もしこれが問題視されるようなことがあっても「そんなことはなかった」と言い逃れされる可能性があるやつです(一気飲みのような感じで「こいつが勝手にやった」と言われるようなもの)。
金額は上官が決めるものの、相場は数千円程度
私が所属していた部隊には夜勤があり、夜勤者は飲み会に参加することができません。ゆえに「楽しんできてね」という意味合いで寸志を包むという文化がありました。
飲み会に参加する人は、1人当たり5,000円前後の料金を徴収されることが多かったのですが、夜勤者は全員で1人分の会費を出すというような感じです。夜勤者が2人なら2,500円ずつとか、3人なら1番上の上官が2,500円出して下の2人が1250円ずつとか。
寸志を貰った側もお土産を用意する
この文化の意味不明な点は、寸志をもらった側も出してくれた側に対して何かしらのお土産を用意するという点です。基本的には飲み会が終わった後、コンビニなどで簡単なスイーツ等を買い、それを夜勤者に届けるという感じなのですが、これが本人たちの感情とは裏腹に形式化していました。
そして飲み会がスムーズに終わらない場合は門限までの時間も少なく、その中でどうやってお土産を用意するかなどの手腕も問われます。夜勤者によっては寸志のお返しを注文してくる人もいますし、時間がなくて用意できなかったという事情を汲んでくれる人もいますが、そうじゃない人も。
日本にはお歳暮やお中元という文化があり、自衛隊における寸志はこれらの軽いバージョンみたいな感じでした。最初は気持ちから始まった優しい文化だったのかもしれませんが、今や強制的に手間暇をかけさせられる悪しき風習と言っていいでしょう。
「寸志は得か損か」で言えば、飲み会が嫌なら損ではない
一般的に考えたら、参加できない飲み会の費用を取られるなんて馬鹿馬鹿しいと感じる人が多いと思いますが、自衛隊の飲み会は下っ端隊員であればあるほど苦行で、私の周りでは「お酒が好きな人でも行きたがらない」「お金を払って免除されるなら喜んでお金を払う」という人も多かったため、寸志に対して嫌だという感情は一切ありませんでした。
個人的には「1万円払って飲み会が免除されるなら喜んで払う」くらいの勢いだったので、それが夜勤者人数で1人分の参加費用の割り勘で済むなら全然OKという考えです。
ただ、一般常識から考えればおかしい点があるのも事実ですし、厳密にいえば「たくさん飲む人、あまり飲まない人、たくさん食べる人、あまり食べない人が一律同じ料金というのもおかしい」と言われる時代ですから、悪しき風習と言ってもいいのではないでしょうか。
自衛隊在籍時に謎だった「寸志」という文化 まとめ
- 飲み会に参加しない人は、参加者に対して「寸志」を送る
- 寸志をもらった側もその中からお返しを用意する
- このような文化が形骸化していて、半ば強制的なものとなっている
- もちろんすべての部隊がそうではないが、このような悪しき風習が少なくない(という目安になるかと)
今回は飲み会における寸志という文化の紹介でしたが、さすがに誕生日に何かを送るという風習はなかったものの、在籍歴が長い隊員の異動時や退官時には隊員全員がお金を出して何かを用意するという文化も存在します。
さすがに1人あたり5,000円という大金を請求されることはありませんでしたが、なにかにつけて1,000円~2,000円を徴収される機会は多く、一般の会社よりも人数が多い職場ですから、自衛隊は意外と出費が多い職場と言えるかもしれません。
あと中隊旅行なんか絶対に行きたくないのに、それについての積み立て費用を集められるのもね。