元陸上自衛官のレトロ軍曹です。この記事では以下のようなことが分かります。
- 自衛隊に体罰はあるのかどうか
- 体罰があるとしたらどの程度のレベルなのか
一般の人たちにはイマイチ掴みにくい陸上自衛隊の内部事情ですが、その中でも一際注目度が高いのが「体罰、いじめに関する問題」ではないでしょうか。
なんとなく自衛官のイメージって「ゴリマッチョ、筋肉バカ、体育会系」というような、いわば感情よりも身体が先に動く系の言葉が思い浮かぶのではないかと思います(まぁ身近に自衛官がいるという人の場合は、そんなイメージばかりではないと思いますけどね)。
自殺なんかも多いと言われていますし、たまに自衛隊のドキュメンタリー番組なんかが放送されていても、万が一いじめがあったとして、それを放送するわけがないですから。「じゃあ実際は体罰あんの?」って部分に、元陸上自衛官の私が忖度なしで答えていきたいと思います。
自衛隊で体罰?普通にあるよ
頭を叩くのが体罰ならそこら中に蔓延している
自衛隊には体罰が蔓延しています。とは言っても、マジのやつがあるかと聞かれたら、私はされたことがありません。そもそも「マジなやつ、ガチのやつ」の判断基準が人によって異なるでしょうし、何をもって体罰とするかですよね。
「頭を叩く」という行為が体罰になるなら、普通にあります。
自衛官は普段から帽子を被っていることが多いので、素の頭を叩かれるということはあんまりないような気がしますが、帽子の上から叩かれたり、あとは「ライナー」と呼ばれるヘルメットのような被り物をしているときは、結構強めに叩かれます。
まぁ、直感的に「痛っ!!」と言うことはあっても、そんなに痛くないやつです。なんなら「叩いた方が痛いんじゃね?」と思うようなやつですね。
腕立て伏せなどの微妙なラインの体罰はめちゃくちゃ多い
あとは、何かにつけて「腕立て伏せ」があります。「遅刻した秒数×10回の腕立て伏せ」とかは、割と自衛隊あるあるの部類じゃないかと思うのですが、1分遅刻して腕立て伏せ600回とか言われたことがあります。
まぁ当然できるわけもなく、実際には「600回とは言いながらも、自分の限界まで」的なニュアンスですね。これを体罰と言うのであれば、教育期間中は体罰の嵐だと思います。
グーで顔を殴る系の体罰は見たことがない
一方で、一般の人から見た時に「自衛隊なら普通にありそう」という体罰として、例えば「グーで相手の顔を殴る」ということがあるのかどうか。ぶっちゃけ言うと、日本のどこかの自衛隊駐屯地では起こっている可能性も否定はできないですが、私は見たことがないですし、されたこともないです。
足やケツを蹴るってことは割とありましたが、それらの場合は「やる方も加減していて、そこまで痛くないような配慮をしている感じ」が出ていました。あくまで7割くらいの力で、それも痛くない部分を狙って蹴るという感じ。
たまに聞こえてくるニュースなんかだと「それマジかよ」って感じてしまうような内容の体罰が報じられていますが、基本的には「同じ自衛隊にいながらも、どこか他人事」みたいな空気感があります。
つまり「世の中の自衛隊のどこかでは起きているかもしれないけど、それを身近に感じる人は少ない」という感じです。野球部の体罰と思ってもらえればいいかも。どっかでは普通にあるだろうし、監督が生徒の頭を軽く叩くくらいは普通にありそうじゃないですか?そんな感じだと思います。
「いっそ殴って終わりにしてくれ」的なやつは少なくありません
外出禁止という重いペナルティ
私の性格にも大きく関係しているかとは思いますが、自衛隊内の罰則というか指導というか…。いわばペナルティですよね。なんか悪いことをした時の連帯責任とかそういう中で、指導する側も「体罰は良くない」と思っている部分があるのか、結果的に「体罰よりも深刻な被害を受ける罰」というのは結構あります。
代表的なのが「外出禁止」です。新隊員教育中は2回くらいありました。部隊配属されて間もないくらいの頃にも1回あったかな?自衛隊では外出するのに、営内班長と呼ばれる上官から許可をもらう必要があるのですが、その許可が貰えないというペナルティです(一定以上の階級になれば免除されます)。
多くの隊員は、土日の週末外出を心から楽しみにして日常業務に励んでいるので、その楽しみを奪われると絶望に陥ってしまう人も少なくありません。そういう人にとったら、まだ頭を叩かれた方がいいと考えるでしょうし、外出できるなら腕立て600回だって喜んでやると言うような気がします。
一昔前の姑問題でありそうなネチネチ系のいじめ
あとは陰湿なネチネチ系のやつですね。「掃除しろ→ちゃんとやったか確認する→イチャモン」という展開も、自衛隊あるあるの1つです。
個人的には「細かくネチネチやるよりも、叩いて気が済むならそっちにしてくれ!」と思ったことが何度もあります。ですから、あからさまな体罰は無いにしても、だからと言ってそれが良い事かどうかというのは、私には分かりません。
特に教育期間一発目の大掃除のときは、終わったら外出OK的な感じになりながらも「最初から外出させる気がない」ってくらいに、とにかく細かくやられます。部屋の隅に小指を這わせたりとかやられるので、個人的には体罰よりもこっちの方が嫌でした。
自衛隊員の自殺の原因と体罰は直結しないのでは?
以前に、自殺してしまった隊員がいたことに触れた記事を書きました。確かに自衛官は自殺してしまう人が多いと言われている職業です。トイレに行けば普通に「思い悩んだら電話して」という感じのポスターが貼られています。
一般の会社と大きく違うのは寮生活で、もし職場に死ぬほど嫌いな人間がいたとすれば、仕事が終わってからも顔を合わせないといけない可能性があるというのは、かなりしんどい一面と言えるでしょう。
しかし、多くの人が想像するような「想像を絶する体罰、暴力」によって、隊員が自殺してしまうというケースはほとんど無いのではないかというのが私の考えです。
- 先輩隊員のイジりをイジメと受け止め、悩んでいた
- 自衛隊特有の風習に馴染めなかった
- 自衛隊とは直接関係のない、大きな悩みを抱えていた
上の方でも軽く触れましたが、何も「体罰=最大の罰」ではありません。多くの人の前で全裸になるのと頭を叩かれるのだったら、後者の方が良くないですか?
私はお酒が飲めなかったので、飲み会の場で「先輩にお酒を注がなきゃいけない→注いだら注がれる」というコンボが非常に苦痛でした。思いっきり殴られることでそれが免除になるなら、喜んで受け入れたと思います(もちろん向こうは、嫌がらせのつもりでやっているわけではないんですけどね)。
自殺してしまう人って、どこか「殴られたり、蹴られたりしていた」という肉体的な被害を受けているようなイメージを持ってしまうことも少なくないと思うんですけど、それは自衛隊においても非常に珍しいケースであることは間違いないでしょう。
絶対にないとは言いませんが、世の中の人のイメージほどは多くないことは間違いないです。
陸上自衛隊時代に体験した体罰の話 まとめ
- あざができる程の暴力行為は、自衛隊の中でも非常に珍しいケース
- 頭を叩いたり、蹴ったりという軽いレベルの暴力行為は日常茶飯事
- 「軽く頭を叩いて終わるならそっちがいい」と思うくらいの嫌がらせは少なくない
こんなことを言ってしまうと身も蓋も無いのですが、結局は駐屯地や配属先の部隊によって違うという感じです。ただしガチの体罰はない代わりに、体罰の方がマシだと感じるような苦痛を感じることは普通にあります。これはどんな会社に勤めても一緒でしょうけど。
とりあえず、「あざができるほど殴られた、蹴られた」という事例は、私の見の周りでは一切無かったです。ただし、銃剣道という競技の名の元、大量のあざを作るという経験は多くの自衛官がすることになるので、人によってはこれを体罰と捉えてしまうかもしれません。